ジェイク・シマブクロ、新作『トリオ』について語る。|ロング・インタビュー
Q1:今回ツアーで共演しているノーラン(・ヴァーナー※ベース)、デイヴ(・プレストン※ギター)とのトリオで制作。この3人でアルバムを作るアイディアは、どのように生まれたのでしょうか。
ジェイク(以下、J):この3年一緒にツアーしてきたから、ライヴみたいに聞こえるレコーディング・プロジェクトをやってみたかったんだ。
Q2:3人でやることを決めた後、どんな作品にするのか。制作を始める前にあった、アルバムのテーマとか、サウンドのヴィジョンとか、アイディアを教えてください。
J:僕たち3人を体現するアルバムが欲しかったんだ。それで、全部の楽器を自分たちで演奏することにした。ノーランは6種類のベースと、ピアノ、パーカッションを、デイヴはエレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、12弦ギター、ラップ・スティール・ギター、パーカッションを、僕はカマカのテナー・ウクレレとカマカのバリトン・ウクレレを演奏したんだ。今回は外部のスタジオ・ミュージシャンは使わなかった。「ランドスライド」のヴォーカル以外はね。それもデイヴの奥さん、レイチェル・ジェームズが歌ったんだ。
Q3:完全に3人で制作しているということはプロデュースも自分たちで? もし、そうだとしたら、セルフ・プロデュースは、どうでしたか? 楽しかった? 判断を全て自分達で下すのは難しかった?
J:曲は全部自分たちで書いたけど、プロデューサーもいたんだ。僕たちと一緒にプロデュースを手がけてくれたR.S.フィールド。前の2作も共同プロデュースしてくれた人だよ。僕は彼と仕事するのが大好きなんだ。
Q4:オリジナル楽曲の共作は、基本的にどんな方法で多くやりましたか? そのオリジナル楽曲のなかで、アルバムの方向性を定めた曲があったら教えてください。
J:アルバムの1曲目はスタジオ内のジャム・セッションとして始まったんだ。何気なく演奏し始めて、色んなサウンドやアイディアを試していたら、自然にこの曲が生まれてきた。デイヴのギター・パートはとてもアグレッシヴな音がするから、ウクレレ・パートもメロディ面でのアイディアを伝えられるように強力にする必要があった。
Q5:「これまで出したことがないようなウクレレのサウンドが再現できたことに興奮している」と語っているのを聞きました。確かにアルバムの冒頭の曲などを聴いて、私も「これがウクレレ」と驚きました。今回のウクレレのサウンド、ジェイクが目指したのはどんな音、どんな演奏? 具体的にイメージした音などがあったら教えてください。
J:このアルバムでのウクレレのサウンドが本当に気に入っているんだ。前の2作も手がけてくれたエンジニアのジャック・クラークが、ウクレレのエレクトリックな音色とアコースティックな音色の両方を、ライヴのサウンドにとても近い形でとらえてくれた。それぞれの曲で望んでいた雰囲気を作るために、様々なマイクやヴィンテージの機材を使ったよ。
Q6:新しいサウンドを実現できた背景に、アンプやトランスフォーマーとの新しい出会いがあったようですが、具体的に商品の説明をしてもらえますか。(商品名、どのようにして出会えたのか。前からすごく探していたものなのか、、、)
J:使った機材についてあまり細かくは語れないけど、このアルバムの要となったもののひとつが、スペース・エコー(Space Echo)というヴィンテージのテープ・ディレイ・マシンだった。過去の作品でも使ったけど、今回は特に「あなたがここにいてほしい」の最後の方でウクレレのトーンに何かしらマジカルなものをもたらしてくれた。マイクのバラエティは幅広かったよ。ヴィンテージのものから、状況によっては最近のレプリカのものの方が好ましいときもあったね。音のサウンドを温かいものにするために、ヴィンテージの真空管機材をたくさん使ったんだ。
Q7:レコーディングは、何日くらい? スタジオは、どんなところで?
J:僕たちはアルバム全体を8日間でレコーディングしたんだ。前の2作と同じように、すべてナッシュヴィルで録音した。スタジオの名前はサウンド・エンポリアム(Sound Emporium)。僕が気に入っているスタジオのひとつなんだ。僕が音を気に入っているアルバムの多くがレコーディングされたところだよ。
Q8:カヴァー曲について。ピンク・フロイドの『あなたがここにいてほしい』、フリートウッド・マックの『ランドスライド』、それぞれ選んだ理由を教えてください。
J:『炎~あなたがここにいてほしい』(Wish You Were Here)は僕の大好きなピンク・フロイドのアルバムで、「ランドスライド」は僕の大好きなフリートウッド・マックの曲で、レコーディングしたいとずっと想っていたんだ。今年に入ってから、僕たち3人でフリートウッド・マックのコンサートを観に行ってね。リンジー・バッキンガムがいなかったのに素晴らしかったよ。彼らのライヴ演奏を聴くのは僕にとって初めてだった。その経験がこのアルバムのレコーディングへのインスピレーションになったんだ。その後僕たちのバージョンをスティーヴィー・ニックスに送ったら、彼女のツアー・マネージャーのマーティ・ホーンが「彼女がすごく気に入っていたよ」と言ってくれた。
Q9:この新作を制作するにあたり、UKツアー、USツアーともに観客が変化している。若かったり、元気だったり、とにかくエキサイティングして楽しんでいると。そういう観客を意識した面は、ありますか? 彼らをもっと興奮させてみたいと思ったとか、、、、
J:本当に正直な話、自分たちがどんなアルバムを作ろうとしていたのか僕には分からなかったんだ。ただ、僕たち3人をソングライター、アレンジャー、プレイヤーとしてフィーチャーするものが欲しかっただけで。それから、コンサートでの僕たちのサウンドが反映されたアルバム。とにかく、僕たち3人のシナジーをとらえたかったんだ。
Q10:「トリオ」というタイトル、シンプルでわかりやすくていいのですが、他にタイトルのアイディアがあったりは? いつもストレートなタイトルだなと思うのですが、それはジェイクの好み?
J:僕はアルバム・タイトルをとてもストレートにするのが好きなんだ。そうすればどんなアルバムなのかリスナーがきちんと判断できるからね。通常はアルバムの中にある1曲から名づけるけど、今回はただバンドを反映させているだけのものなんだ。
Q11:いいアルバム・ジャケットです。昔のジャズ・アルバムの雰囲気もあって。このジャケットのデザインについて説明してもらえますか? メンバー誰かのアイディアとか?
J:このアルバム・ジャケットは気に入っているよ。とてもストレートだし、このトリオを象徴している楽器が何か分かりやすいしね。特にウクレレのヘッドにあるカマカのロゴがとても気に入っているんだ。
Q12:アルバムが完成して、ジェイク自身が新作に感じていること、満足感でも、次の作品につながる作品と考えているとか、アルバムについて思うことを教えてください。
J:最近のツアーでは既に新曲をいくつか演奏し始めたんだ。この新作を出すことにとてもワクワクしているよ。曲はとても興味深くて、僕が過去に録音したものと違ったものになっている。楽器編成は僕のこれまでのレコーディングに特有のもので、ウクレレをスペシャルな形でフィーチャーしていると思う。ウクレレとエレクトリック・ギターがこんなに相性がいいなんて思ってもみなかったよ。
Q13:あらためて、ノーラン・ヴァーナー、デイヴ・プレストンとの出会い。なぜ彼らと組むことにしたのか、その理由を含めて教えてください。
J:ノーランとはナッシュヴィルで5年ほど前に、デイヴとは3年ほど前にデンバーで出会った。ふたりの音楽へのアプローチの仕方や、曲の感じ方が大好きなんだ。僕たちは音楽的嗜好やバックグラウンドが違うから、彼らと演奏することで常に新しいことを学んでいるよ。
Q14:新しいウクレレのサウンドにいい意味で衝撃を受けています。こんなサウンドも出せるのか、その可能性を知ったという意味でも。漠然としていて答えにくい質問かもしれませんが、ジェイクは、今、そしてこれから、ウクレレをどうしたいのか。ウクレレでどんな世界を目指したいのか。今抱いているヴィジョンとかを教えてもらえますか。
J:ウクレレがポップ・ミュージックにもっと活用されるのをぜひ聴いてみたいね。ウクレレのサウンドは独特で個性が強いから、とても難しいことだけど。だから時にはウクレレが気を散らしてしまったり、その曲の雰囲気を元々目指していたものから乱したりしてしまうんだ。
Q15:最後にアルバム楽曲の曲解説を簡単にお願いいたします。
M1. ウエン・ザ・マスクス・カム・ダウン | When The Masks Come Down
J:この曲は僕たち3人を平等に体現しているような気がする。これはスタジオ内でのインプロヴィゼーションのジャムとして始まったもので、僕たち全員がメロディ面でのアイディアを曲全体に出していったんだ。
M2. トゥエルブ | Twelve
J:これは新作の中でも僕のお気に入りの曲だね。コンセプトに重きを置いた曲なんだ。まずは紙の上で考えてみたけど、ぜんぶうまく合わさるものかはっきりは分からなかった。僕はこの曲の醸し出す緊張感とサスペンスがとても気に入っている。クロマティック・スケールを基に作ってあって、上昇と下降が同時に起こっているんだ。でも行き着くところは同じでね。僕たちは「ピッチクラス・セット理論(Set Theory:日本語では“セット理論”よりもこの名で呼ばれることが多いようです)」として知られる、最近の現代音楽的なアプローチを使ってこの曲を書いたんだ。
M3. レジスタンス | Resistance
J:この曲はウクレレのダブル・ピッキング・テクニックがフィーチャーされている。この曲で多用されているトランジションがとても気に入っているんだ。この曲のアレンジには、僕たちたくさんの時間を費やしたよ。
M4. ラメント | Lament
J:Eマイナーはウクレレのキーの中でも僕のお気に入りのひとつなんだ。この曲のテーマを最初に思いついたのは、ニューオーリンズにいるときだった。ニューオーリンズの雰囲気があるとは思わないけど、演奏するたびにあの街のことを考えるんだ。
M5. レッド・クリスタル | Red Crystal
J:息子がこの曲のタイトルを思いついてくれた。楽しく書いたりレコーディングした曲だね。スペインのフラメンコ・ギターの特徴が少し表れている。
M6. モーニング・ブルー | Morning Blue
J:スタジオで最初にレコーディングしたのがこの曲だった。ノーランが息子のために書いたんだ。美しいバラードで、ショウでもよく演奏しているよ。
M7. サマー・レイン | Summer Rain
J:デイヴがこの曲を書いたんだけど、家族からインスピレーションを得たと言っていた。これもまた美しいバラードだね。この曲もショウでよく演奏しているよ。
M8. あなたがここにいてほしい | Wish You Were Here
J:これはレコーディングが楽しい曲だったね。
M9. ファイアーフライズ | Fireflies
J:これもまた新作の中のカヴァーだった。僕たちの友人が書いた曲なんだ。彼は僕たちと一緒にスタジオにいて、セッションのビデオを撮ってくれていた。ある夜レコーディングの後、彼がギターを手に取って、この曲のコード進行を弾き始めたんだ。それで「今の曲何て名前?」と訊いたら、「何年も書いたオリジナルで“ファイアーフライズ”というんだ」と教えてくれた。それで、僕たちにレコーディングさせてくれないかと頼んだんだ。最高の笑顔を見せてくれたよ。
M10. ワイアラエ | Waialae
J:ハワイの伝統的な曲の中でもお気に入りのひとつなんだ。初めてこの曲を聞いたのは1999年に遡る。クリス・カマカ、デル・ビーズリー、ブライアン・トレンティーノ、アサ・ヤングからなる、「サイド・オーダー・バンド」というハワイアン・バンドの前座を日本で務めたときだった。この曲は彼らへのささやかなトリビュートとして録音したかったんだ。
M11. オン・ザ・ウイング | On The Wing
J:この曲は僕が何年も前に作曲した、スラック・キー・ギターのちょっとしたメロディが基になっているけど、この曲ではスティール・ギターがとても気に入っているんだ。僕にとってはジョージ・ハリスンの昔の作品をいくつか彷彿とさせるよ。
M12. ストロング・イン・ザ・ブロークン・プレイシズ | Strong In The Broken Places
J:この曲はアーネスト・ヘミングウェイの言葉にインスピレーションを得たんだ。オープニング曲とよく似た感じで、この曲もスタジオでのジャム・セッションとして始まった。本当に、ただインプロヴィゼーションしているうちにこの曲がまとまったんだ。
【訳注】ヘミングウェイの言葉
The world breaks everyone and afterward many are strong in the broken places.
この世は皆を傷つける。そして、多くはその傷から強くなる。
(1929年『武器よさらば[A Farewell To Arms]』より)
M13. ランドスライド | Landslide
J:僕はこの曲が大好きだ。レイチェル・ジェームズがヴォーカルでフィーチャーされている。デイヴの奥さんで、デイヴとやっている「ディアリング(Dearling)」いうバンドで歌っているんだ。素晴らしい声の持ち主だよ!
M14. 143(2019バージョン) | 143(2019 Version) ※日本盤ボーナストラック収録
J:何度もレコーディングしてきた曲だけど、ノーランとデイヴの演奏の仕方がとても好きだから、もう一度レコーディングしたいと思ったんだ。
インタビュアー:服部のり子
英文日本語訳:安江幸子